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発達障害当事者・家族支援の構築に向けて③~鳥取県庁 発達障害者支援施策 視察

視察1日目は3か所の視察を行いました。

鳥取県立精神保健福祉センターで鳥取県福祉保健部参事監 鳥取県立精神保健福祉センター所長 医学博士の原田豊先生との面会を後にして、鳥取市にある鳥取青少年ピアサポートの視察を行い、午後からは鳥取県庁に発達障害者支援施策の視察に伺いました。

鳥取県では、誰もが暮らしやすい地域社会(共生社会)を実現するため、様々な障害特性を持っている人が抱えている困り感や、それぞれに必要な配慮を理解し、日常生活でちょっとした配慮を県民が心掛けるよう促していく「あいサポーター」運動を行っています。

「あいサポートバッジ」「障がい特性や必要な配慮などをまとめたパンフレット」を受け取り、研修会や講演会、イベントなどで「あいサポート運動」の説明を受けることで、意欲のある人は誰でも「あいサポーター」になれます。

この「あいサポート」運動は、平成21年11月に鳥取県で創設し、平成23年4月からは島根県と広島県、平成25年度からは長野県・奈良県と4県が連携し、取り組みを進めています。また、銀行や生命保険業など518企業・団体を認定し、この運動を広く従業員を対象として強化されているそうです。

また、ペアレントメンター※鳥取というものが設立されています。

ペアレントメンターとは、自閉症など発達障害のある子どもを育てる先輩の親で、親の相談役となる人のことです。同じような子どもを育ててきた経験や知識や地域の情報を生かして相談相手や地域機関との連携役になります。日本自閉症協会が2005年度から養成を続け現在は自治体がその役割を担い始めるようになりました。

相談技術の基礎、実技、国の施策などを体系的に学ぶ養成講座が実施され、修了後は専門機関のバックアップを得ながら親の会や支援団体などをベース
に活躍しています。厚生労働省はペアレント・メンターの養成を今後の発達障害 支援推進策の一つに明記し、相談技術をもった家族は大事な資源と位置づけているそうです。

※mentorメンター…「信頼のおける相談相手」という意味。

鳥取県は、平成22年度にペアレントメンターを養成し始め、鳥取県自閉症協会が事務局内に「ペアレントメンター鳥取」事務局を設置し、55名のペアレンターが登録されたそうです。平成23年度には、鳥取県がペアレントメンター運営委員会を設置し、開催業務を鳥取県自閉症協会に委託をしたそうです。

「ペアレントメンター鳥取」では、以下の具体的な活動を行っています。

・来所・訪問の個別相談…同一相談者からは、電話相談をし続けるのではなく、出来るだけ直接会って話してもらうよう心掛けているため、戸別の訪問相談が増えているそうです。

・電話・メール相談

・保護者勉強会やピアカウンセリングへの参加

・理解啓発活動(キャラバン公演等)

・ペアレントトレーニングへの協力

・サポートブック作成指導

・発達障害に関する情報提供等

このペアレントメンターを行うことにより、発達障害のある子どもの家族など同じような境遇にあるもの同士が、同じ親として話を聞くことで、ともに相談者も共感し、地域の情報を提供してもらえるなど、相談者にとって大きな支えとなるそうです。

また、この制度の中では理解啓発活動として、キャラバン公演を行っています。依頼は月1回以上あるそうです。1回につき5人前後のペアレントメンターで行うようにしているそうです。これは、学校や地域の人権研修会などで発達障害を知りたいと思っている人たちを対象にしたものです。内容は、発達障害の人たちの感じ方、見え方、聞こえ方、手先の不器用さなどを参加者の方に模擬体験をしてもらい発達障害特性やどうしてこのようなことをするのか、どのように当事者に接すればよいのか等、その特性を持った人に対する関わり方のコツをパワーポイントなどでレクチャーするそうです。寸劇、クイズ、疑似体験などによる発達障害特性を理解したり、子育ての体験を伝えたりしています。

発達障害の特性があるがゆえに、本人のやっていることが奇異に見えてしまうことも多々あります。しかし、それは当事者なりの理屈があってやっていることです。当事者がこんな気持ちなのか、このように接してほしいのかと参加者の皆さんに体験をしてもらえるような仕掛けがしてあるそうです。

ペアレントメンター制度の今後の課題は、以下の通りでした。

・ペアレントメンターは専門家ではなく、保護者であるため、利用者が過度な期待を持ちすぎてしまう。

・共感的寄り添いができる相談支援技術の維持・向上を図る研修が必要。

・各圏域での活動が充実するために、ペアレントメンターの新たな要請が必要。

・活動体制の構築、活動経費の補助等、行政のバックアップが必要。

今後の取り組みとしては、

・ペアレントメンターの活動内容について、理解、啓発チラシなどによる一層の周知を図る。

・ペアレントメンター事務局でスキルアップ研修を主催できるよう、発達障害者支援センターのバックアップ体制を図る。

・活動可能なペアレントメンターの少ない圏域を対象に、ペアレントメンター養成を行う。

・ペアレントメンターが安心・安全に活動が出来る様、県としてペアレントコディネーター配置や相談にかかる補助など、バックアップ体制の拡充を継続して行う。

・ペアレントメンターが診断を受けた保護者にすぐに寄り添えるように、臨床心理士などと共に病院に待機し、相談者が希望すればすぐに相談に乗ることが出来る体制をモデル的に実施する。

この幼少期の発達障害支援においては、保護者支援が特に重要なテーマとなっています。当事者の障害特性などが理解されにくいことによる悩みや孤立感など、支える側の家族が疲弊していく状況が顕著にみられます。その為にも、同じ保護者であるメリットを生かしたアプローチや支援が必要です。この鳥取県で行っているペアレントメンター制度は発達障害特性の子を持つ親に対する支援として、充実させていました。更なる構築を図るとのお話しでもあり、大変期待できる取り組み事例の一つでもあります。

私はこれを成人期の発達障害者支援に置き換えて制度を構築できないのか、この制度を活用し拡充すれば成人期の発達障害者支援にまでつなげることができるのではないかと考えています。

次に、鳥取県庁では、「子どもの心の診療ネットワーク整備事業」が構築されていました。

発達障害や児童虐待、引きこもり等、様々な子どもの心の問題に対する支援ネットワークを構築することを目的としたモデル事業を、鳥取大学医学部附属病院を子どもの心の診療拠点病院として平成20年から実施しているそうです。また地域医療従事者への研修や発達障害等の理解や支援のあり方を広めるためのフォーラムも開催しています。この事業の大まかな概略は以下の通りです。

 1.子どもの心の診療ネットワーク事業

ネットワーク会議

・各圏域の小児科医、精神科医の代表者と子どもの心に関する医療機関の連携の在り方について検討。

・医療と福祉、保健、教育等の各分野との連携のあり方について協議。

テーマ別ワーキング

・各地区小児科医会の協力により、小児科医、精神科医合同で子どもの心の理解に関する勉強会を開催して理解を深める。

2.子どもの心を支えるスタッフスキルアップ事業

子どもの心を支える診療医等スキルアップ研修

・ 拠点病院医師が先進地研修に出向くことで拠点病院医師のスキルアップにつながる取り組み

・子どもの心の診療と支援に関する医学講座

・医療と福祉の連携を図る症例検討会

子どもの心を支える支援者スキルアップ研修

・児童福祉施設心理職員研修への臨床心理士等派遣

・福祉保健教育等子どもの心の問題に関わる支援者に対する専門研修会

3.子どもの心に関する理解啓発事業  

理解啓発講演会

・県民に対して子どもの心の問題に対する理解を深めるための講演会を開催(年1回)

 受診時支援ツール等の開発

・受診時の支援となるツールの見直し及び開発を行う。

情報提供

・ホームページ等による子どもの心の問題やその支援に関する情報の提供

このように鳥取県では鳥取大学医学部附属病院との連携により、強力に児童の発達障害者支援を先進的に進めています。東京では進めきれていない分野について、病院との連携が入り、心ある優秀な専門家や医師たちとの連携で強力に構築されていました。そしてさらに、専門家たちによるアドバイスが適宜入り、更なる構築へと拡充している段階です。

現在、発達障害特性を持っているがゆえに2次障害も併発し社会や家庭生活が上手く保てずに児童虐待、引きこもり、ニート、DV、生活保護受給、自殺などに陥っている人たちがいる現状があります。それをいかに食い止めていくのか、担税力ある人材として自分の持てる能力を発揮し、誰もが傷つかない世の中を作っていくことができるのか、発達障害を知れば知るほど、当事者のライフステージを通じてその効果的な支援策を構築することが早急に望まれます。この支援が出来れば、これら成人期の方々が発している諸問題に対して、適切な支援ができ、多くの人たちが抱えている生きづらさや困り感を軽減させることが必ずできるはずです。

鳥取県では、成人期の発達障害者支援制度はまだ構築されていません。これは鳥取県に限らず、全国的にも成人期の発達障害者支援はまだまだ未知数で、整備が皆無の状況です。私はこの皆無と言ってもよい状況に対してどのように効果的な支援策を構築していくべきか、しっかりと考察し、発達障害を受容しない成人期まで達した当事者に対する気づきのアプローチの仕方やその当事者を支えている疲弊した家族の具体的な支援策の構築を足立区から強力に作っていきたいと思います。