令和7年足立区議会第3回定例会:代表質問の内容①【足立区公契約条例の実効性について 】
足立区公契約条例が施行されて11年が経過しました。施行当時、足立区では、“条例は小さく産んで大きく育てる”という表現を用いて、最初は小さな規模から初めて、少しずつ大きく発展させることを掲げていました。現場で働く方々はこの条例がスタートしたことで、適正な技能には、適正な賃金を得られると期待を膨らませていました。
令和7年4月1日から公契約条例の適用範囲について、工事請負契約は予定価格が1億8千万円以上から1億円以上、業務委託契約は適用業務の拡大、指定管理協定はすべての施設にそれぞれ拡大し、改正後は、条例の施行状況について検証し、労働・雇用環境の変化に応じた見直しを概ね4年ごとに実施していくとの見解を示されています。
※※※※※※以下、委員会での発言要旨(抜粋)です。※※※※※
☆【足立区公契約条例の実効性について 】
1.足立区公契約条例の実効性を問う
【長谷川たかこ】
公契約条例の目的の1つに、作業に従事する労働者の労働環境の整備を図り、区民の生活向上と、地域経済の活性化を目指すとしています。つまり、適正な技能には、それに見合った報酬を得られると解釈されます。その理念の実効性を高めることは急務です。しかし、公契約条例の実効性が担保されていないという声が私たち会派に届きました。
足立区内の建設労働組合では、条例が施行して以降、毎月、適用現場に出向き、労働者から労働環境のヒアリング調査を行っているそうです。そのヒアリング件数は1000件を超えており、そのヒアリング結果によれば、下限報酬額以上で就労している労働者は半分もいないそうです。
【問】労働者から労働報酬下限額以上の支払いに疑義があるか否かについて、労働者側からの問い合わせは年に数回程度で、通報レベルまで至っていないのが現状であると区からご回答を頂いておりますが、そもそも労働者が公契約条例を理解しきれていない状況もある為、足立区が元請会社に確認していくというやり方では課題解決になりません。何故ここまで、足立区内の建設労働組合から切実な訴えがあるのでしょうか。区長はこの問題についてどのような認識でいらっしゃるのでしょうか。区長の見解を求めます。
【近藤弥生区長】
長谷川たかこ議員の代表質問のうち、私からは公契約条例に関するご質問にお答え致します。まず、労働者が公契約条例を理解しきれていない状況もあり、元請け会社に確認するだけでは、課題解決とはならないのではないかとのご質問にお答えをいたします。
先日、私、副区長、担当の部課長で、東京土建足立支部の皆様方にお目にかかって各会派にご要望された同じ内容のご要望を私どもも承っております。
労働者の方々が公契約条例を理解しきれていないとのご指摘につきましては私も同感でございますので、区職員がこれまでは一部の公契約条例の工事現場だけの訪問にとどまっておりましたが、今後はすべての公契約の工事現場を訪れて条例の趣旨や労働報酬下限額等の制度を労働者の皆様方に周知徹底するとともに周知カードや区ホームページの見直しによりわかりやすくお伝えできるように取り組んで参ります。
【長谷川たかこ】
【問】昨年度の足立区労働報酬審議会においても、足立区が積算する工事予定価格と受注者側が労働従事者に支払える額とに乖離があり、妥当ではないという議論が交わされています。審議会では、受注者側から「予定価格が我々の請け負うべき金額とずれがある」という厳しい発言が出ています。また、この審議会の中で区としては、「工事契約については、物価スライドの計算方法もある程度は定められたものがあるが、委託やその他の契約については、国からは適切に対応するようにという事だけで、具体的にはどうやるべきかという事は示されていない。」と見解を述べられています。
区としてやるべき事として、予定価格の見直しのほかに、業界の仕組みを変え(多重構造)、仕事の振り分けの仕方の見直し、さらには通報制度のあり方の再考をすぐにでもすべきと考えます。区長の見解を求めます。
【近藤弥生区長】
区が積算する工事予定価格、業界の仕組みや工事の振り分けの仕方を見直すほか、通報制度のあり方の再考も即行うべきとのご質問にお答え致します。
まず、工事契約の予定価格につきましては、国や東京都から示される積載基準に基づいて行っております。そのため、税金の適正な支出の観点からも見直すことは考えておりません。また、建設業界の多重構造の仕組みを変え、仕事の振り分けの仕方を見直すことにつきましては、区としてなかなか介入が難しい課題だと考えておりますが、公契約制度を運営していく中で少しでも効果が生じてくるよう、区としても適切に対応して参りたいと思います。
なお、通報制度のあり方につきましては、私どももご相談を受け、実際になかなか通報すると、後が怖いというようなことで通報をためらうというような現実もあることも認識しておりますので、労働報酬審議会の委員の皆様方のご意見も承りつつ、公契約等審議会で審議した上で検討して参りたいと思います。
2.公契約条例 第10条の通報制度の機能を高める
【長谷川たかこ】
足立区公契約条例第10条には、下限額を下回る場合、その事実を足立区総務部契約課に申し出ることができるとの通報制度がありますがその通報制度は、この11年間、工事部門において労働者側からの問い合わせは年に数回程度で通報レベルまで至っていないのが現状です。
足立区内の建設労働組合が現場労働者になぜ通報制度を利用しないのかを尋ねると「そもそも公契約条例の中身を知らない」「通報したら、会社から何を言われるかわからない」との回答であったとの事。また、2次下請会社の社長からは「労働者に条例で決められた賃金を払いたいが、そもそも、払えるほどの請負契約金額ではないし、そんな事言ったら、次の仕事がこないかもしれない。」との回答だったそうです。第10条の通報制度は、機能を果たさない状況が続いていると組合から今年も痛切なお訴えがあります。
もし仮に今後の取引関係を考慮して、労働者や下請会社からの通報制度が機能していないのであれば、今以上に、行政がもっと主体的に関わることが条例の実効性を上げるポイントの1つではないでしょうか。実効性を高めるためにもこの課題を重く受け止め是正を求めていきます。
【問】令和7年4月公契約条例が改正され、区は、労働者の周知徹底を強化するために周知カードや区職員による状況確認、あだち広報、SNSの活用を表明されました。しかし、11年間も続いてきたこのような状況に即時対応できるのか甚だ疑問です。国レベルにおいては、法律の実効性を高めるために建設Gメンと言われる専門チームが設けられています。足立区においても、同様の専門チームを立ち上げ、公契約条例がきちんと施行されているか否かのチェック機能の強化が喫緊の課題です。先ずは、区として専門チームの立ち上げを求めます。区の見解を伺います。
【総務部長】
私からは、公契約条例第10条の通報制度の機能を高めるとのご質問についてお答え致します。まず事業者側が条例を遵守しているかを確認する専門チームの設置ですが、公契約条例の遵守は事業者の責務であり、事業者が自ら労働者の賃金や労働条件などを確認し、区に報告することと定めています。また、労働者から報酬の支払いなどに関する申し出などがあり、条例の遵守状況を確認する必要がある場合は、区は事業者の調査を行うこととしています。従いまして、現在のところ新たに専門チームを設けることは考えておりません。
【長谷川たかこ】
【問】現場の実態把握に努めるためにも、区職員が公契約現場に赴き、現場アンケートの実施や直接労働者からヒアリングをする等、積極的な実態の把握を区として行うことを強く要望致します。ヒアリングを行うことで、従事者に対する条例の周知にもつながり、またさらには、条例の実効性を高めることにもつながります。区の見解を求めます。
【総務部長】
次に現場アンケート等による実態把握の実施についてお答え致します。
建設労働組合が行った調査は、工事現場で労働者から口頭で報酬額などを確認したと聞いています。そのため、労働報酬基準額を算出に必要な税引き前の賃金の額、及び賞与や手当の額、公契約条例上の職種等が不明確であり、労働報酬下限額を下回っていることの正確な確認ができないと考えております。
現場の正確な実態把握には、労働者から給与明細等の証拠資料の提出と事業者から賃金台帳の提出等の協力を求める必要があり、労働者と事業者双方に多大な負担が生じます。また、労働報酬審議会では、事業者の協力なしに区が現場での実態調査を行うことに対し、実効性を疑問視する意見もございます。
従いまして、現場での実態把握を目的としたアンケートやヒアリングを行うことは、現在のところ考えておりません。
【長谷川たかこ】
工事請負契約の公契約現場で、「条例の適用現場であること」「労働報酬下限額以上の賃金が支給されること」を記載した周知啓発ポスターの徹底について足立区内の建設労働組合が強力に働きかけた結果、ポスター掲示となりました。さらには今年度、新規で周知カードの作成・配布となっております。
【問】引き続き、労働者が休憩する場所でのポスター掲示の徹底や新規で作成された周知カードの配布を行うよう強く要望致します。また、その取り組み状況を常に区として把握していくよう強く要望します。区の見解を求めます。
【総務部長】
次にポスター掲示や周知カード配布による周知の継続及び取り組み状況の把握についてですが、これまでも、事業者を通じてポスター掲示等による周知啓発を行ってきたところです。
令和7年4月の区の公契約条例の改正により、新たに開始した周知カードの配布と合わせて、今後も周知啓発を行って参ります。
なお、令和7年4月から9月上旬までの間に区職員が約4割の公契約の工事現場で、ポスター掲示や周知カードの配布状況を確認しております。今年度中には、全ての公契約の工事現場において周知啓発の取り組み状況の把握に努めて参ります。
【長谷川たかこ】
【問】周知カードでリンクされている区のWeb内容ではインパクトに欠けるとの話が労働組合から声が挙がっています。周知カードやリンク先のWeb内容が目に飛び込み、調べようと思える仕掛けが必要です。デザイン、文言に注意をし、作成の修正を求めます。区の見解を伺います。
【総務部長】
次に労働者に配布する周知カードやリンク先の区ホームページの修正が必要とのご質問にお答え致します。
区ホームページについては、今年度中に労働者がわかりやすいデザインや文言となるよう、見直しを行います。また、周知カードは、昨年度に作成しており、在庫が多数あることから、次回のカード作事時に見直すことと致します。
【長谷川たかこ】
【問】さらに定期的に区の職員が、公契約現場の朝礼に出向き、工事主管課を含め、区職員が条例の制度周知を行ってくことを強く求めます。区の見解を伺います。
【総務部長】
次に、区職員が公契約現場の朝礼に定期的に出向き、条例の制度周知を行うことについてお答えをいたします。
工事現場の朝礼は、作業を安全かつ効率的に行うため、当日の作業の内容や注意点、従事者の体調確認等を行う時間のため、区職員が条例を周知する時間には適さないと考えます。
これまでは、区職員が公契約現場に訪れて、ポスター掲示や工事責任者とのヒアリング等により周知状況を把握することは、年に数カ所しか行なっておりません。
今後は、工事契約の締結時や区職員と工事責任者との打ち合わせ、公契約現場での工事検査の機会を捉えて、すべての公契約現場で各々少なくとも年間3回はポスター掲示や周知カードの配布状況等を確認して参ります。
さらに、労働者に対する不利益な取り扱いの禁止についても、事業者及び労働者双方に周知啓発を行うよう努めて参ります。