中国残留帰国者問題の研究 ーその現状と課題ー
第2章 中国・樺太残留帰国者問題
2-3-3 損害賠償請求事件 東京地裁 2007年1月30日
(訟務月報53巻4号893頁) 棄却
神戸での原告側の勝訴判決を受けて注目された東京地裁の判決であったが、結果として、勝訴どころか、大阪地裁の判決からも後退した、原告の全面敗訴となった。
他の判決では認められることが多い、国の「早期帰国実現義務」であるが、東京地裁では、
①日中国交正常化前については、早期帰国実現に向けた施策を国として立案、実行することが不可能であった。
②日中国交正常化後については、原告の主張する被害はすでに発生してしまっており、それを回避すること自体について一部疑問がある。
として、早期帰国実現義務の成立そのものを否定した。
また、自立支援義務についても、早期帰国実現義務違反が認められないのであるから、「日本社会で生活していく上で生じるであろう種々不都合、不便、不利益など原告らが被害あるいは損害と主張するものの発生を防止する措置を講じる義務を負わない」として、国の義務を否定した。
神戸での勝訴判決の後であり、原告数も全国でもっとも多く、その判決も今後の他の裁判にも大きな影響を与えると注目されていた判決だったが、国に対して、「原告らを早期に帰国させる義務も帰国後に特別な生活支援をする義務も一切ない」とした判決は、「無慈悲な判決」「冷酷非情な判決」と評されることとなる。
東京の原告団も、その後、2007年2月7日に東京高裁に控訴を行っているが、新制度の成立を受けて、2007年12月13日に訴えを取り下げ、裁判は終結した。