中国残留帰国者問題の研究 ーその現状と課題ー
おわりに
日本社会において、日本とは異なる文化圏で育ってきた人々を、どう受け入れていくかを研究する中で直面したのが、本論文の主題の「中国残留帰国者問題」である。
中国残留帰国者問題は、長い間、置き去りにされてきた。
歴史的な政策の転換といえる2008年4月から始まった新しい支援制度は、困難な境遇にあった中国残留帰国者達にとって、長年待ち続けたものであったに違いない。
この歴史的転換期において、改めてこれまでの中国残留帰国者政策を振り返り、また新制度スタートに伴い、行政並びにそれぞれの立場で支援を行っている人々から直接話しを聞くことで、新制度の姿とこれからの課題などが見えてきた。
また、支援を受ける立場である中国残留帰国者やその2世にも直接お会いし、話しをすることで、政策の立案や実行の立場からだけでは見えてこない、帰国者達の「生の声」を聞くこともできた。
中国残留帰国者の問題は、単に「異文化で生活してきた人々の受け入れ政策」だけでは、カバーできない複雑な問題を抱えていることは、本論文で何度も述べてきた。
2008年4月から始まった新制度が、中国残留帰国者達にとって、本当の意味で「希望の光」となるかは、今後の政策の実行にかかっている。
制度設計がようやく終わり、試行錯誤しながらも、本格的に支援事業がスタートする区市町村などの自治体等において、本論文がその政策立案の一助になれば幸いである。
また、このことが中国残留帰国者問題だけでなく、広く日本社会が抱えるさまざまな外国人の諸問題の解決の糸口になることを望むものである。
今後、筆者自身も、さらに研究を深め、さまざまな場で政策を提言していきたいと思う。
最後に、本論文の作成にあたり、お忙しい中、さまざまなお話しをいただき、多くの資料を提供いただいた、厚生労働省を始め各行政機関の担当者の皆様、定着促進センター、自立研修センター、支援交流センターの職員の皆様、NPO法人中国語の医療ネットワークの皆様、また辛い過去なども含め、貴重なお話しをいただいた足立区在住の中国残留帰国者の皆様に、心から御礼を申し上げたい。