中国残留帰国者問題の研究 ーその現状と課題ー

第2章 中国・樺太残留帰国者問題


2-2 中国残留邦人等が帰国・入国する際の日本政府の対応


中国残留邦人の帰国手続きについて、日本政府の対応は必ずしも積極的とはいえず、中国残留帰国者問題を長期化させる原因のひとつになったことは否めない。

もともと、日本国籍を持つ中国残留邦人が、日本に引き上げる場合は、日本政府の許可を得なければ帰国できないということはありえない。
しかし、終戦後の混乱と、当初、日本と中国共産党政権の国交がなかったことなどが原因となり、その対応は混迷した。

この節では、中国残留邦人(孤児も含む)が、日本へ帰国・入国する際の、日本政府の対応についてまとめる。


(1)日中国交正常化前

外国人が中国を出国する際には、外国人の管理を行う公安当局に申請して、中国政府発行の許可証を取得する必要があったが、日本人が帰国しようとする際には、家族とともに帰国することを認めていた。

その申請の際に、中国政府は、日本政府が発行する日本人であることの証明書を要求することが多かったが、日本政府は帰国者の留守家族等を通じ、帰国希望者に戸籍に関する証明書を発行していた。

この手続きは、本人にとって、自国に帰るためには余分な手続きと言えるが、中国人と結婚するなどして、中国国籍を取得した元日本人や、帰国に同伴する中国人家族にとっては、外国人として必要な手続きさえも不要という、便宜的な取り扱いと言える。


(2)日中国交正常化後

日中国交正常化後、それ以前に中国国籍を取得した者について、日中国交正常化の日に日本国籍を喪失したとみなし、それ以降、そのような者を外国人として取り扱うこととし、中国旅券と査証による入国を求めた。

つまり、中国旅券を持つ者は、中国人であるとして、他の共産圏諸国からの入国者と同じ入国手続きが行われた。
したがって、日中国交正常化前は身元保証がなくても入国が認められていた元日本人(中国籍を取得した残留邦人)および同伴の中国人家族については、日本の留守家族による身元保証がなければ帰国できないことになった。

日中国交正常化当初は、日本の国籍を持ちながら、中国旅券の発給を受けたものに対して、日本の国籍を失っているかのどうかの判断が困難であるとの考えから、日本人としての手続きによる帰国を認めていた。

しかし、1974年ころまでには、中国の旅券を持つものは、中国国籍を取得し、日本国籍を喪失している可能性が高いと判断し、残留孤児を含めた全ての中国旅券所持者に対して、外国人としての帰国手続きを行うようになった。

さらに、中国旅券を所持する残留孤児については、入国後も国籍の判明の有無にかかわらず、外国人登録を求めるなど、外国人として扱った。

その結果、身元保証なしに帰国できる者は、日本国籍を有することが確認できた者で、かつ中国政府からも日本人として扱われた者(中国旅券を有しないもの)に限られた。
そのため、身元が判明している残留孤児であっても、留守家族の身元保証を得て、外国人として入国しなければ、日本に帰国することが出来ないことになり、身元が判明していない孤児については、日本に入国することが極めて困難となった。
その後、身元が判明していない孤児などに対する身元引受人制度(後に、特別身元引受人制度と一本化)が創設され、帰国の道が開かれることとなる。

さらに、1994(平成6)年には、法務省入国管理局長が国会での答弁で、「中国残留邦人が日本に帰国する際には、日本人であり、入管法上は、身元保証などは一切必要ない」との旨の発言をし、入国手続きの際に、中国残留邦人を日本人として扱うことを明言した。
(身元引受人制度は、入国上の問題ではなく、帰国後の円滑な生活の上で重要な制度との見解。)

その後、1995(平成7)年には、「中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立支援に関する法律及び同法施行規則」の施行に伴い、中国残留帰国者の取り扱いは、図2-4で示すと通りに取り決められ、法務省入国管理局から関係各所に通達された。