中国残留帰国者問題の研究 ーその現状と課題ー
第2章 中国・樺太残留帰国者問題
2-3-2 損害賠償請求事件 神戸地裁 2006年12月1日
(判例時報1968号18頁) 一部認容・一部棄却
大阪訴訟に続き、判決が出たのが神戸訴訟である。
この神戸訴訟の判決は、一連の中国帰国者訴訟の中で特筆すべきものとなった。
結論からいえば、全国で行われた訴訟のうち、唯一、原告勝訴(請求一部認容)の判決が出たものである。
判決の中で、残留孤児を外国人として扱い、留守家族による身元保証書が提出されない限り入国を認めなかったことや、残留孤児が入国の際に、入管法が求めていない処置を孤児に求めたことなどを、「合理的な根拠のない帰国制限措置」とし、違法な職務行為だと判断した。
また、自立支援義務については、政府に対して、中国残留孤児が日本で自立して生活をするために必要な支援を講ずべき義務があるとした上で、政府の帰国孤児の自立支援策は極めて不十分で、政府は自立支援義務を懈怠があったとしている。
神戸地裁判決では、原告に対する国家賠償を認めた唯一の判決となった。
この判決は、全面勝訴というわけではなかったが、全国で訴訟を続けている帰国者たちの大きな勇気となっただけでなく、その後の政府の中国残留帰国者の支援策への対応に少なからず影響を与えたと思われる。
このように、神戸地方裁判所は、原告らの請求を一部認め、原告65名のうち、4人を除く61名に対し総額4億6800万円の損害賠償金を支払うよう国に命じた。
国は、この判決を不服として、2006年12月11日に大阪高裁に控訴した。
その後、新支援制度の成立を受けて、全国で進められていた他の裁判同様、訴訟の取り下げが行われ、裁判が終結することになる。