中国残留帰国者問題の研究 ーその現状と課題ー

第3章 中国残留帰国者等への支援策の実態調査


3-6 中国帰国者定着促進センターの取り組みの実態について



日本に帰国した中国・樺太残留邦人は、最初に「中国帰国者定着促進センター(以下、定着促進センター)」に入所することとなる。

定着促進センターは、1984年に「中国帰国孤児定着促進センター」として、埼玉県の所沢市に開設され、1994年に現在の名称に変更された。(1998年より、樺太からの帰国者も入所)
その後、帰国者希望者の増加に伴い、1987年には、北海道、福島、愛知、大阪及び福岡に、1994年には所沢センターの分室として山形、長野に、1995年には宮城、岐阜、広島に新たに定着促進センターを開設し、受入体制を整備し帰国の促進を図ってきた。

しかし、1987年の377世帯、1424名をピークに帰国者数は減少し、2007年には54世帯123名のみの帰国となっている。
このような状況から、全国11ヶ所あった定着促進センターは、2008年4月の大阪の定着促進センターの閉所を受けて、埼玉県所沢市の1ヶ所となった。

定着促進センターは、研修施設と宿泊施設からなり、帰国者は帰国後、6ヶ月間(研修期間は、当初4ヶ月間だったが、2004年以降は、6ヶ月となる)、宿泊施設で生活をしながら、日本語の習得はもちろん、日本の文化や生活習慣を学ぶ。また、小学生・中学生の入所者に対しては、近隣の小・中学校に体験入学をさせるなどのプログラムも用意されている。

筆者が訪問、聞き取り調査を行った所沢の定着促進センターでは、開所以来、現在までに1729世帯、6409名の入所者があった。
定着促進センターは、現在、国からの委託を受けた(財)中国残留孤児援護基金によって運営をされている。





なお、定着促進センターのこれまでの入所者数の推移については、本論文末尾の参考資料[11]を参照されたい。


3-6-1 中国帰国者定着促進センターの事業内容



定着推進センターの主な研修内容としては、以下の5つに大別される。

(1)「行動」プログラム
日本での日常生活に不可欠な行動達成力を養う。行動場面にともなう日本語と日本事情を学び、実習などを通じて実践力を身につける。
具体的には、実際に、電車への乗り方、役所での手続きなどを行い、社会のルールを学ぶとともに、その際に必要な語学力も身に付ける。

(2)「知識」プログラム
日本の社会や暮らし、帰国者特有の必須時候に関する知識を身につける。
日本の社会、日本のくらし、帰国者事情について学ぶ。

(3)「交流」プログラム
身近な話題や日本・中国・サハリンの比較などを通して、コミュニケーション能力を身につける。

(4)「ことば」プログラム
日本語の基本を4技能(聞く、話す、読む、書く)に渡って学習する。
帰国者の年齢層は幅が広いため、日本語の習得レベルに合わせて4クラスを設け、入所者にあったペースで日本語を学習していく。

(5)「学科」プログラム
小中学生向けのプログラム。小中学校での教科学習と結びつけて日本語を学習、近隣の小中学校への体験入学も行う。
体験入学の期間は、中学生はおよそ2週間、小学生はおよそ2ヶ月間。

また、この他に、全国各地に定着した帰国者とその家族が、「いつでも、どこでも」日本語学習が出来るように、通信教育という形で「遠隔学習指導」も行っている。
さらに、定着促進センターは、宿泊施設を併せ持っており、研修施設での日本語などの習得だけでなく、入所者はそこで集団生活をしながら、日本の生活習慣やごみの出し方などの日本社会のルールなども学ぶ。


3-6-2 中国帰国者定着促進センターの職員からの聞き取り調査



ここでは、定着促進センターの職員からの聞き取り調査をまとめる。

①2008年11月現在の入所者(83期生)は、14世帯、53名。

②中国残留帰国者の受け入れ施設としては、国内でもっとも歴史がある。

③中国からの帰国者は、被害者意識がある人がいる。

④同じ入所者でも、中国残留帰国者とその家族では、目的意識や日本語の習得意欲などに差が見られることがある。

⑤教科書的な日本語学習だけでなく、実際の社会の場面に即した、実践的な日本語教育、生活習慣を身に付けながら、日本語を学べるプログラムを実施している。

⑥帰国者の中には、幼少期に満足に教育を受けられなかった者から、中国で学校を卒業したものまで、幅広く、日本語等の習得速度にも大きな差がある。

⑦現在の研修期間は6ヶ月となっているが、入所者には個人差があり、その期間が人にあっていない場合もある。 (日本語などの習得が速い小学生などは、基本的な学習をした後は、早く退所するなどして、日本の学校に通わせた方が、日本語は格段に上達するが、高齢者などは、逆に6ヶ月の研修期間では短い場合もある)
ただし、家族単位で入所する場合が多く、その研修期間については、解決が難しい問題である。

⑧現在、教職員も含め50人程度で運営をしているが、日本語を教える教職員などの募集は、大変な苦労がある。

⑨既存の学習教材は、6ヶ月の短い期間の学習、また、さまざまなレベルの人が学ぶには、最適なものがなく、開所以来、オリジナルの教材を作成し、試用している。

⑩退所後は、自立研修センター、支援・交流センターなどが、帰国者の支援をしていくことになるが、全国にも数が少なく、継続して日本語等を学習していける環境は整っていない。

⑪近くに、自立研修センター、支援・交流センターがない人などのために、通信教育で学習を続けていけるような取り組みを始めている。

⑫定着促進センターを退所後、地域の受け皿の整備が十分でない。

⑬新しい制度の効果が現れるまでには、時間がかかるのではないか。

⑭中国残留帰国者の支援主体が、区市町村に移行したが、それぞれがばらばらに行っていては、ノウハウや情報の共有が出来ないばかりか、地域間で格差が生まれる原因になる可能性がある。


以上の中で、とりわけ注目すべき点は以下のとおりである。
【1】帰国者によって、日本語習得などへの意識の差はかなりある。
【2】定着促進センターでの6か月の研修の後、地域の受け皿は十分とは言えない。
【3】新しい支援制度により、事業主体が区市町村に移行することによって、情報の共有ができなくなり、地域間の格差などが生じる懸念がある。