中国残留帰国者問題の研究 ーその現状と課題ー
第3章 中国残留帰国者等への支援策の実態調査
3-7 中国帰国者自立研修センターの取り組みの実態について
中国帰国者定着促進センターで研修を終えた帰国者は、それぞれの定着地に移り住むことになる。
しかし、定着促進センターでの6ヶ月の研修だけでは、語学の研修も十分ではなく、日本社会で生活を送る上で、十分な研修とは言えない。
そこで、1988年より、国は定着促進センター後の帰国者達の支援体制のひとつとして、「中国帰国者自立研修センター」の設置を始めた。
定着促進センターを退所した帰国者は、この自立研修センターで、12ヶ月の研修を受けることになる。
自立研修センターは、帰国者数が多くになるにつれて、最大で全国15箇所に設置されたが、帰国者数の減少に伴い、その数は年々減っている。
また、帰国者の高齢化により、純粋に語学や日本文化の習得というだけでなく、生涯学習の意味合いも強くなり、12ヶ月という期間を区切った研修でなく、将来的に支援を行っていくという国の方針もあり、2008年11月現在、東京、神奈川、千葉、大阪の全国4箇所である。
さらに、2008年度中に、神奈川、千葉の自立研修センターの閉鎖も決まっている。
なお、この自立研修センターは、いわゆる国費での帰国者のみならず、私費での帰国者も支援の対象としており、語学教室の受講料などの費用については、帰国者の負担はない。
筆者は、帰国者のおよそ4割が居住していると言われる東京にある「中国帰国者自立研修センター」を訪問し、その事業内容などの聞き取り調査を行った。
東京中国帰国者自立研修センターは、国の事業の委託を受けた東京都が、社会福祉法人 東京都社会福祉協議会に再委託をし、運営されている。
国の施策では、自立研修センターでの研修期間は8ヶ月とされているが、当研修センターでは、研修期間を原則12ヶ月としている。
また、必要に応じて半年間の延長、さらに退所後も再研修教室の実施なども行っている。
3-7-1 中国帰国者自立研修センターの事業内容
主な事業内容は、以下の通りである。
(1)日本語指導事業
①日本語教室の運営
定着促進センターの退所時期にあわせ、半年で1プログラムとなる2期2クラス制で高年、一般、夜間の3コースを開講している。
当センターでは、財団法人 東京基督教女子青年会に日本語教室の運営を委託している。
高年コース:主に1世を中心とした高齢者のクラス。ゆっくりと学習し、生活に即した日本語の学習。
一般コース:2世、3世が中心。
夜間コース:昼間、働いている人が中心(私費による帰国者が多い)
※日本語教室は、原則1年だが、1回(半年)に限り、留期を認めている。
近年の入校者数は、以下のような推移となっている。
②日本語教室への相談員の派遣(週1回)
日本語の学習指導だけでなく、生活上の相談にきめ細かく対応するために、相談員を派遣している。
また、修了を控えた受講生には、生活習慣などを学ぶ「日本の生活」授業を実施している。
③再研修教室 (期間 原則1年)
帰国後5年以内の高年クラス(高齢者のクラス)の修了者を対象に、日本語の再研修教室を開催している。
これは、高齢者にとって、1年(定着促進センターを含めれば1年半)という期間では語学の習得が難しいこと、また引きこもりの防止や生きがいとしての日本語学習を目的としている。
現在、25名から30名の受講者がいる。
(2)生活相談および就労相談
中国語の話せる相談員は5名。毎日3名を配置。
生活や就労の相談だけでなく、ハローワークとの連携による職場の紹介や、面接への同行、就労後の安定のための職場訪問なども行っている。
※東京都中国帰国者自立研修センター 資料より
相談内容は、①日本語習得、②就職、③医療についての相談が上位を占める。
また2007年度に関しては、2008年4月から始まる新制度に関する相談も多かった。
(3)職場体験事業
職場体験を通じて、日本の労働慣行などを学ぶことを目的に実施している。
1世は高齢のため、基本的に参加対象は2世となる。
(4)通訳派遣事業
2008年11月現在、同センターでは、42名の登録通訳員が登録されており、帰国者等から依頼を受けた東京都が派遣対象の確認・判断の上、自立研修センターに連絡、同センターで調整の上、派遣を行っている。
派遣先の約8割が、通院・入院時の通訳である。
※東京都中国帰国者自立研修センター 資料より
※1)2008年4月より、通訳派遣事業は各区市町村によって行われる事業となったが、体制が整っていない区市町村については、引き続き東京都が事業を行っている。
※2)2007年度は支援給付金制度への切り替え時の通訳もあり、件数が増加した。
上記の他に、不定期で行う「地域交流事業」、「健康診断事業」、「大学入試準備過程(2004年度以降、未実施)」がある。
3-7-2 中国帰国者自立研修センターの職員からの聞き取り調査
ここでは、自立研修センターの職員からの聞き取り調査をまとめる。
①1981年頃から地域の社会福祉施設より、中国帰国者への対策を求める声が高まり、事業を開始。その後、東京都の委託を受けた。
②事業のうち、相談事業がメインである。
③国の方向性では、帰国者に対する支援体制は、支援・交流センターにシフトしている。
④半年に一度、入所者。多くて、5〜6世帯くらい。
⑤東京に定着する帰国者については、国(東京都)から情報は入る。
⑥自立研修センターを退所後、行くところがなく、ひきこもりになる帰国者もいる。
⑦研修終了後の受け皿作りが、早急に必要。
⑧民間の外国語教室では、年齢や歴史的背景などから、馴染めない帰国者が多いことから、1世を中心に帰国者の教室を希望する声が多い。
⑨1世は、帰国者同士の情報交換の場、2世は一般の社会との交流の場を求めている。
⑩東京都全体で、(1世、2世、3世合計で)何名くらいの帰国者がいるのか把握は出来ていない。
以上の中で、とりわけ注目すべき点は以下のとおりである。
【1】国の方針では、帰国者に対する地域での支援体制は今後、支援・交流センターに移行していく。
【2】定着促進センターを退所し、東京に定着した帰国者の人数は分かるが、その後の呼び寄せなど、2世、3世を含めると、実際の数は把握できない。
【3】研修の修了後、行くところがなく、引きこもりになるケースもあるので、情報交換の場、交流の場などが求められている。