中国残留帰国者問題の研究 ーその現状と課題ー
第4章 中国残留帰国者問題の課題と対策
4-4 地域社会への順応の難しさ
(1)問題点
今回、中国残留帰国者本人からの聞き取り調査でも、日本以外の文化圏で育った人が、日本社会に溶け込むことの難しさを、改めて認識した。
特に中国残留帰国者は、外国人とは違い、日本人であるにも関わらず、長く中国で生活を強いられてきたために、日本語が話せない、日本の文化に馴染めない人々である。
そんな人々に対して、日本社会の受け入れは、決して温かいものではなかったようである。
さらに、2008年3月までの制度では、経済的な支援体制が十分でなく、生活保護に頼って暮らしているものも多くいた。
生活保護を受けているということに対して、プライドが傷つき、また、生活にさまざまな制限が付き、生活を監視されているような印象を持ちながら暮らしていた。
このような背景や言葉の壁などから、積極的に地域のコミュニティーに溶け込むことも出来ず、引きこもる帰国者も多くいると言われている。
(2)対策
中国残留帰国者に限らず、他の文化圏で生活をしてきた人が、日本の社会に溶け込むのは、大変な苦労を伴う。 その上、中国残留帰国者の中には、終戦時に筆舌に尽くしがたい体験をし、心に大きな傷を負った者、母国に捨てられた(棄民)との思いから、日本に対して不信感を持っている者もいる。
このような背景から、帰国者が日本社会へ溶け込むには、地域社会の理解だけでなく、帰国者本人の心のケアが必要であると考える。
2008年4月からの新制度に伴い足立区や江東区などでは、帰国者の家を相談員が戸別訪問し、悩みや相談などを聞いている。
この取り組みは、まだ始まったばかりであるが、このような中で帰国者と相談員の信頼関係が生まれ、心を開き、地域社会へ踏み出す準備が出来るのではないかと期待する。
また、行政においては、中国残留帰国者の形だけの地域への参加を急がずに、まずは、帰国者の心のケアを優先させ、同時に、地域社会の一般国民の理解を得、受入れ体制を整えなければならない。
広報などを使った広く画一的な啓発活動だけでなく、地域で活動をする人達の中で、地域のリーダー的な人や帰国者に理解のありそうな人のみをターゲットとしたシンポジウムなども、効果的と思われる。