中国残留帰国者問題の研究 ーその現状と課題ー

第2章 中国・樺太残留帰国者問題


2-3-7国家賠償請求事件 高知地裁 2007年6月15日
(TKC法律情報) 棄却


敗訴が続く訴訟の中でも、やや後退した感じのある広島訴訟の次に判決の日を迎えたのは、高知地裁での訴訟である。

判決では、早期帰国実現義務について、「残留邦人を日本に帰国させる義務(召還義務)」「残留邦人について日本国籍を有しているか否かを調査する義務(国籍調査義務)」の2つに分けて論じているのが特徴である。
そして条理上、国は中国残留孤児らに対して、これらの義務を負っているとした。

その上で、「1962年6月1日以前は、現在地から日本までの旅費を提供していない点」などを挙げ、召還義務違反を認めた。
また、あるものが中国残留邦人であると認識したときから、国は日本国籍を有するか否かについて調査しなければならなかったのに、それを行わなかったばかりか、帰国時にいったん外国人登録をさせ、日本への召還時に外国人として取り扱う方針を決めたことなどを挙げ、国籍調査義務を果たしたとはいえず、違法とした。
判決では、自立支援義務違反に関しては、法的な義務としての作為義務ではないとしている。

「召還義務違反」「国籍調査義務違反」と国の義務違反を認めたものの、その国家賠償請求権については、起算日を原告の永住帰国した日であるとし、いずれについても提訴時まで3年がすでに経過しているとして、消滅時効が完成したとの判断であった。

高知地裁の判決は、結果的には敗訴となったが、神戸地裁の判決に続き、国の義務違反を違法とした点において、原告側は「事実上の勝訴」と位置づけている。
その後、高松高裁に控訴したが、新制度の成立を受けて2008年3月に訴えを取り下げ、裁判は終結した。