中国残留帰国者問題の研究 ーその現状と課題ー

第3章 中国残留帰国者等への支援策の実態調査


3-5 区市町村の取り組みの実態について(大田区)



足立区、練馬区の他に、筆者は大田区役所も訪問し、中国残留帰国者問題の担当者部署である保健福祉部計画調整課の職員から、聞き取り調査を行った。

大田区は、支援給付の対象者は2008年11月30日現在、64世帯109人にのぼる。(2世、3世に関しては、他の自治体同様、把握できていない)
政策の立案に関しては、区の担当部署で行うものの、実際に帰国者と接し、支援事業を行うのは、区内4か所の地域行政センターに配置された支援・相談員および、従来からのケースワーカーである。

大田区では、2008年度に関しては、4月からの支援給付金の支給を行うのみとし、他の支援事業に関して東京都にお願いし、大田区としては準備を行い、2009年度より実施することを予定していた。
しかし、区内の状況を調査するにしたがい、早急な事業を進める必要性を認識し、急きょ、支援事業への対策を盛り込んだ補正予算を9月議会に提出、支援事業を進めている。

3-5-1 新制度における区市町村(大田区)の取り組み



大田区では、現在、自立指導員は配置していない。
支援相談員については、現在、6名(うち2名は東京都の自立指導員経験者、1名は帰国者の2世)の職員を区内4か所の地域行政センターに週1日ないし2日のペースで配置している。

各行政センターの区域内で暮らす中国残留帰国者数と支援相談員の配置状況は次のようになっている。


地域行政センター対象者世帯数対象者数配置される支援相談員
13世帯22人1人 週2日
西2世帯 4人1人 週1日
23世帯35人2人 週1、2日
24世帯44人2人 週2日
大田区では、支援の対象者を中国残留邦人等と配偶者の他、国の支援制度では対象としていない、2世、3世も対象としている。

  大田区の主な支援事業は以下のようになっている。
① 地域における中国帰国者等支援ネットワーク事業
ア)地域住民の理解を得るための研修会
イ)地域での日本語交流事業
② 身近な地域での日本語教育支援事業
ア)日本語教室の実施
③ 自立支援通訳等の派遣
ア)自立支援通訳の派遣
イ)自立指導員の派遣
ウ)就労相談の実施
④ 地域交流活動拠点の確保

上記の①、②、④の事業について、2008年10月以降、NPO法人 東京都日中友好協会に事業を委託している。
(③については、通訳の確保ができなかったために、事業委託ができなかった。出来る限り早い段階で、事業が開始できるようにしたいとのこと。)
実績として、①、②の事業は取り組みが進んでいるが、③、④の事業に関しても、本年度中の開始を目指している。

具体的には、以下のような事業を実施、または実施予定である。

(1)地域における中国帰国者等支援ネットワーク事業

  (ア)地域住民の理解を得るための研修会
11月に、中国残留孤児訴訟 弁護団全国連絡会の弁護士を呼び、区内の施設のホールにて、講演会を実施した。
80名(民生委員 40名程度、帰国者30名程度、その他、10数名程度の一般区民)ほどの参加者であった。

(イ)地域での日本語交流事業
中国帰国者を対象とした料理教室を開催し、これに地域の区民に参加をしてもらい、交流を通じて、日本語の学習や日本語会話の促進を図る。

具体的には、料理教室と交流会、クリスマスパーティー、新年会などを予定している。

(2)身近な地域での日本語教育支援事業
安心して地域生活を送るための簡易な日常会話の習得のために、主として、まったく日本語の会話ができない者などを対象とした初級のクラスを開講する。

2008年10月に、日本語教室の開講説明会を開催したところ、30名ほどの参加者がいた。
その後、レベルに応じて3クラスの教室を開講した(各クラスは、それぞれ10名程度である)。




3-5-2 区市町村(大田区)の担当者からの聞き取り調査



ここでは、大田区の担当者からの聞き取り調査をまとめる。


①2008年4月からの支援給付金の支給を間に合わせるために準備をしたが、そのために、他の事業に関しては準備ができなかった。

②2008年度に関しては、東京都の事業に任せるつもりであったが、現状をみて、早急な事業展開を決定した。

③中国帰国者の団体などから、日中居られる交流の場を作ってほしいとの要望があった。

④支援相談員の訪問の際は、区のケースワーカーなども必ず同行する。

⑤支援事業へ参加した帰国者への交通費の支給等は、現在、東京都にお願いしているが、来年度は区で実施できるようにしたい。

⑥地域の帰国者のコミュニティー、2世、3世の実際の人数などは把握していない。

⑦帰国後、働いていた帰国者と働いていなかった帰国者が同じ年金を支給されるのはおかしいとの声もあった。

⑧来年度以降も、講演会などの区民に対する啓発活動は続けていきたい。

⑨中国帰国者達が集える拠点については、2009年の早い時期に開設を目指し、準備を進めている。

以上の中で、とりわけ注目すべき点は以下のとおりである。
【1】2008年度は事業準備だけのつもりであったが、現状をみて、急きょ、年度内中に事業を開始した。
【2】中国帰国者達が集える拠点については、2009年の早い時期に開設を目指し、準備を進めている。