中国残留帰国者問題の研究 ーその現状と課題ー
第4章 中国残留帰国者問題の課題と対策
4-1 短すぎた準備期間
(1)問題点
中国残留孤児訴訟を契機に阿倍総理(当時)が指示した、中国残留帰国者問題の解決への新しい施策については、対象となる帰国者の多くが高齢者ということで、早急な対策が求められた。そのため、わずか1年足らずで、厚生労働省や審議会等での検討会、国会議員との協議を行っている。
最終的に法改正へとつながるこの動きは、中国残留孤児集団訴訟を受けたことで、支援策の充実を図る政府の施策転換と言える。
しかし、各地方自治体の現場の声を聞くと、国からの周知方法や準備期間は十分であったとは言えず、対象者が多く在住している足立区、江東区(都内、中国残留帰国者数1位2位の自治体)では、問題意識の高さと対策の必要性は十分認識しているものの、やはり細かい点においては、人手の問題、多くの事業の準備の問題など課題が残っている。
特に、2008年4月以前は、中国残留帰国者には、生活保護を受けていた者が多くいた。これこそがまさに、従来の支援策が十分でなかったことの表われともいえる。
しかし、2008年4月以降の新制度では、帰国者を対象とした新しい給付金制度が始まり、各地方自治体の担当部署では、4月の給付開始に向け、従来の生活保護制度から、新しい給付金制度への切り替えのための事務作業に追われることになった。
そのため、同じく新しい支援制度として各地方自治体の事業とされた「地域における中国残留邦人等支援ネットワーク事業」、「身近な地域での日本語教室」「中国帰国者等の地域生活支援プログラム」などの多くの事業は、ほとんどの自治体で取り組みが進んでいないのが現状である。
厚生労働省によると、審議会や立法過程において、随時、必要な情報は地方自治体の担当者に連絡をし、3月には全国紙に2回にわたり広告を掲載するなど、周知活動を行ってきたとの話しだったが、現状を見るとやはり準備不足と言わざるを得ない。
(2)対策
この課題に対しては、今から出来ることは、多くない。
この制度の所管官庁である厚生労働省は、まず地方自治体への情報提供を徹底し、国、都道府県、区市町村での緊密な連絡体制が必要である。
特に、都道府県においては、これまで行ってきた中国残留帰国者に対する支援のノウハウを、区市町村の担当者に継承することが重要である。
また、厚生労働省や都道府県が中心となり、全国でさまざまな自治体が行っている取り組みの事例を調査し、集約することによって、成功例、失敗例などをデータベース化し、後進の自治体がそれらの前例を参考にして、事業計画を策定できるようなシステムの構築が求められる。
これにより、全国多くの自治体が厚生労働省と中心にネットワークでつながることにより、お互いのノウハウを共有でき、無駄を省いた迅速で、より効果的な政策の実行が期待できる。