中国残留帰国者問題の研究 ーその現状と課題ー

第4章 中国残留帰国者問題の課題と対策


4-5 地域における日本語などの生涯学習体制の不足



(1)問題点
2008年3月までの制度では、定着促進センター、自立研修センターでの研修を終えた帰国者は、民間企業による語学教室の他は、全国に7か所ある支援交流センターや都道府県が実施する日本語講習などが、日本語や生活習慣などを学ぶ手段であった。
しかし、帰国者の生涯にわたる支援を行う支援交流センターも、全国で7か所しかなく、遠方のために通所が困難な帰国者も多くいる。
また、帰国者の高齢化などにより、長距離を移動しての通所が困難になることもある。

2008年4月から始まった新制度では、日本語学習などの事業の実施主体が身近な自治体である市区町村に変わったものの、前述したように、その体制は必ずしも整っているとは言えない。


(2)対策
地域における学習支援の問題は主体が、地方自治体に移ったことにより、各区市町村で本格的な事業がスタートすれば、現状と比較し、良くなっていくものと思われる。
しかし、「地域格差」のところでも考察したように、単独で事業を行うことのできない自治体については、都道府県や近隣の区市町村との協力が必要である。

また、各区市町村においては、いきなり学習支援事業を開始するとなると、ノウハウや人員の面で不安が残る部分がある。

そこで、定着促進センターや自立研修センター、支援交流センターなどの活用が最も効果的な対策となると考えられる。
たとえば、埼玉県所沢にある定着支援センターでは、昭和59年に開所されてから24年間の日本語教育のノウハウがあり、それに基づいた独自の教材も製作している。
各地方自治体が、この独自に開発された教材を活用することで、地域に定着した中国残留帰国者に、より高い次元のサービスを提供することが可能となるであろう。
講座の開設や場所の提供などのハード面は、各区市町村が担当し、講座の中身にあたるソフト面は、各センターの協力を仰ぐなど、定着促進センター、自立研修センター、支援交流センターで培われてきたノウハウを享受することは、各地方自治体にとってそれぞれの地域の特殊性にあったサービスを展開することが可能になる。

また、各センターにとっても、地域に定着した帰国者の把握や、地域での学習までも考慮に入れた研修プログラムの設定なども行えるというメリットがある。